「運用」で想像されることの多くは起きない
サイトの運用というと、定期的な記事の更新、お知らせの投稿、キャンペーンの差し替えといった作業が思い浮かぶと思います。制作会社からもそう説明されることが多いはずです。
ただ、美容室で実際に起きていることは、それとはかなり違います。
サイトに手を入れる必要が出てくるのは、年に数回です。しかもその内容は、記事の追加ではなく、情報の修正であることがほとんどです。
つまり運用とは、何かを増やし続ける作業ではなく、古くなった情報を正しく保つ作業だということになります。この前提が違っていると、設計そのものを間違えます。
実際に更新が必要になる3つのこと
公開後に修正の依頼をいただくのは、おおむね次の3つです。
- 価格改定材料費や人件費の変動に合わせてメニュー価格を見直したとき。数年に一度ですが、確実に発生します。
- スタッフの入れ替わり入社と退職。掲載範囲を絞っていても、いずれ必要になります。
- 臨時のお知らせ感染症の流行時のような、営業体制に関わる緊急の告知。頻度は低いものの、必要になったときは急ぎます。
この3つに共通しているのは、いずれも「作った情報を書き換える」作業だという点です。新しいコンテンツを生み出す作業ではありません。
だからこそ、更新のための仕組みを大掛かりに用意する必要がない。ブログ機能や記事投稿システムを入れても、使われないまま残ります。必要なのは、既存の情報を正確に直せる状態です。
管理画面を渡さないという選択
サイトの更新を誰がするか。サロン自身が管理画面から編集する形と、制作側が依頼を受けて対応する形があります。
当社は、依頼を受けて対応する形を基本にしています。理由は2つあります。
ひとつは、サロン側の負担を減らすためです。年に数回しか触らない管理画面は、使い方を覚える前に忘れます。前回いつ何をしたかを思い出しながら操作する時間は、施術の合間に捻出するには重すぎます。メールで「この価格を変えてください」と送るほうが早い。
もうひとつは、サイトの美しさを保つためです。
文字数が想定より長い見出しを入れると、改行位置が崩れます。写真の比率が違うと、並びが揃わなくなる。こうした調整は、作った側であれば意識せずに整えられますが、慣れていない方には分かりにくい部分です。時間をかけて作ったデザインが、更新のたびに少しずつ崩れていくのは、双方にとって望ましくありません。
更新の依頼はメールでいただいています。件数が少ないので、保守契約は基本的に不要です。必要が生じたときに都度お見積りする形で、多くのサロンは問題なく回っています。
毎月固定費を払い続けても、使う機会がなければ意味がありません。保守契約が必要になるのは、更新の頻度が高い場合か、システムの安定稼働に責任を持つ必要がある場合です。美容室の通常のサイトでは、どちらにも当てはまらないことがほとんどです。
気づかないうちに古くなっている場所
更新が少ないサイトで起きやすいのが、修正したつもりで直っていない情報が残ることです。よくあるのは次の2つです。
ひとつは、年末年始の営業案内です。去年の日程が残ったままになっていることがあります。掲載した本人も、一年経つ頃には忘れています。
もうひとつは、料金改定後の旧価格です。メニューページは直したものの、トップページやコンセプトページに書かれていた「カット5,000円から」といった記述が残っている。1箇所だけ古い価格が残っていると、来店したお客さまとの間で行き違いが起きます。
これを防ぐために、設計の段階でできることがあります。同じ情報を複数の場所に書かないことです。
価格をメニューページだけに置き、他のページからはそこへ誘導する。営業時間を一箇所で管理し、フッターにも同じデータを表示させる。仕組みとして一元化しておけば、直し忘れが起きません。作るときの手間は少し増えますが、その後の数年間で回収できます。
公開したあとに、こちらから見に行く
更新の依頼が少ないということは、こちらから連絡しなければ、何年も接点がないまま過ぎるということでもあります。それでは、サイトが実際にどう使われているのか分かりません。
ですので、実際にお店に伺うようにしています。
行ってみると、内装が少し変わっていることがあります。什器が入れ替わっていたり、飾りが増えていたり。サイトに載せたいかどうかを、その場で確認できます。オーナーも、わざわざ連絡するほどではないと思っていることが多いので、こちらから見つけるしかありません。
別件で連絡を取るときにも、使っていて不便なことがないかを聞くようにしています。「予約ボタンの場所が分かりにくいと言われた」「この情報を探しているお客さまが多い」といった話は、聞かなければ出てきません。依頼として上がってくる前の、小さな違和感の段階で拾えると、対応も簡単です。
作って終わりにしないというのは、定期的な作業を売り続けることではないと思っています。関係が続いていて、必要になったときにすぐ動ける状態にあること。それで十分ではないでしょうか。
古くならないものを作り、少しずつ直していく
サイトの寿命について聞かれることがあります。何年で作り直すべきか、という質問です。
制作会社としては「3年から5年で見直しを」と答えるのが定番ですし、実際にそう言われることが多いと思います。ただ、私が目指しているのはその逆で、できるだけ古くならないデザインです。
流行の表現を取り入れたサイトは、数年でその年代が分かるようになります。当時は新しく見えたものほど、時間が経つと古びる。逆に、サロンの空間と理念を丁寧に翻訳しただけのサイトは、何年経っても意味を失いません。店が変わらない限り、伝えるべきことも変わらないからです。
そのうえで、少しずつアップデートしていく。写真を新しいものに差し替える、スマートフォンの表示を現在の主流に合わせる、読み込みの速度を改善する。全面的に作り直さなくても、部分的に手を入れれば長く使えます。
作り直しが必要になるのは、サイトが古びたときではなく、店そのものが変わったときです。内装を大きく変えた、コンセプトを改めた、店舗を増やした。そのタイミングで、伝えるべきことが変わります。
運用できる範囲で設計する
サイトを作る前に確認しておくとよいのは、公開後に誰が何をすることになるのか、という点です。
更新が必要な仕組みを入れるなら、それを続けられる体制があるかどうか。ないのであれば、最初から更新しない前提で設計したほうが、結果として良い状態を保てます。
美容室は、営業しながらサイトを育てるのが難しい業種です。それは怠慢ではなく、仕事の性質です。であれば、その性質に合わせて作るのが設計の役割だと思っています。
手をかけなくても成立し、必要なときだけ直せばよく、何年経っても古びない。地味ですが、これが営業中のサロンにとって現実的な運用の形だと考えています。